歯並びを気にしすぎないことも大切です
たくさんの患者さまから矯正相談をお受けする中では、客観的な検査の結果を見ても、決して前歯が出ている訳ではないのに、抜歯をしてでも前歯を引っ込めたいといったご相談をいただくことがあります。
事実、基準よりも前歯が出ていないものの、前歯を引っ込めたいとの願望をもっていらっしゃる方は決して少なくありません。しかし、抜歯をしてまで引っ込ませる必要がない方がそれを行うと、歯並びだけを見ると綺麗になったとしても、治療後の口元が少しクシャっとなり、治療前と比べ、老けた印象になってしまいます。このため、不用意な抜歯はしないに越したことはありません。それゆえ、歯科医師の立場から矯正治療が不要と思う患者さまには、患者さまのご意向とは異なるものの、考えだけはきちんとお伝えするようにしています。
ご参考までに、矯正治療の治療計画では、画像のとおり、どの程度歯が動くかをデジタルデータでご覧いただいています。このデータは、治療後の歯並びシミュレーション(白い歯の位置)と現在の歯の位置(青いマーク)を重ね、どの程度歯が動くかを表しています。加えて前述のとおり、患者さまがすごく前歯を引っ込ませたいとおっしゃる場合、患者さまのご希望の場所まで引っ込ませると、本来あるべき位置(青い位置)からどれだけ差異がでてしまうか、引っ込みすぎになってしまうかも、これらデータに照らし合わせながらご案内するようにしています。
そしてもうひとつ、矯正治療をすると、上の前歯の中央の線(これを正中と言います。矯正治療をご検討の方は、聞かれたことがある方も多いかもしれません)と、下の前歯の中央の線が、定規で線を引いたように一直線に並ぶと想像されるかもしれません。しかし、上下とも理想的に歯を並べたとしても、もちろん前歯の中央の線が上下中央一直線になる方もいらっしゃいますが、必ずしも中心線が中央でピタッと一直線になるとは限りません。
それは、ヒトの顎の骨は完全な左右対称ではないうえ、歯のサイズも、左右で完全に同じ形や大きさではないからです。それゆえ、見た目においても噛み合わせにおいても理想的な歯並びにした結果が、完全に左右線対称になる訳ではありません。患者さまが矯正治療に求めることが、前歯の中央線を、顔の中央で完全に上下一直線にしたいという場合には、この点を優先させることで噛み合わせがおかしくなってしまい、本末転倒の結果になってしまうことを、事前の検査でお伝えしています。
矯正治療で大切なこと、それは見た目だけではなく、噛み合わせを含めたお口全体のトータルプランニングとその実現に他なりません。
余談ですが、実は、上の前歯の中央の線と、下の前歯の中央の線が完全に一直線になっていないとしても、それは面と向かって食事をするなどの場合でも、なかなか気づかれるものではありません。決して、見た目の妥協が必要と考えているのではなく、この点に限れば、客観的に目立つ要素ではないため、気にしすぎず、前述のとおり噛み合わせなどを含め、お口全体をトータルで考えることこそが最も大切である、とお伝えできればと願っています。
なお、下の前歯の中央の線に比べ、上の前歯の中央の線のほうが目立つケースが多いことから、当院で矯正治療の治療計画を作成する際には、基本的には上の前歯の中央線ができる限りお顔の中心に来るように留意しています。